造化三神は日本神話における天地創造の始まりに登場する神々です。
アメノミナカヌシノカミ(天之御中主神)、タカミムスビノカミ(高皇産霊神)、カミムスビノカミ(神産巣日神)の三柱の神々は、混沌とした世界の創世において非常に重要な役割を果たし、宇宙の生成と秩序の源とされています。
目次
記紀神話において
『古事記』の冒頭は天地開闢から神話の世界が描かれていますが、天地の始まりの一番最初に現れた神様がアメノミナカヌシ。
続いてタカミムスビとカミムスビが現れ、すぐ身を隠しました。
この造化三神の中でもアメノミナカヌシは、冒頭以降の記述は一切無い謎の多い神です。
この三つ柱の神々を総称して「造化三神(ぞうかさんしん)」と呼び、造化三神は男神、女神の区別がない独神(ひとりがみ)です。
しかし『古事記』などにはタカミムスビの子としてオモイカネノカミ、ヨロズハタトヨアキツシヒメが、カミムスビの子としてスクナビコナの名前が記されています。
この造化三神を原子核を構成する「陽子(タカミムスビ)」「中性子(アメノミナカヌシ)」「電子(カミムスビ)」に例えると、電子と陽子は互いにプラスとマイナスの電荷を持つので、反発し合うタカミムスビとカミムスビ。
その中心にアメノミナカヌシがいて原子核が構成されると考えると「万物の根源神」としての神格に当てはまるといえます。
天地創造の神である造化三神は森羅万象が内包している「エネルギー」という側面もあると考える事も出来ます。
アインシュタインが提唱した相対性理論によるE=mc2では、Eはエネルギー、mは質量、cは光の速度を表し、「質量(物体)が運動して光の速度を超えれば、質量はエネルギーに変わりうる」という事を証明しています。
つまり、ありとあらゆる物質にエネルギー(造化三神)が内包していると捉える事もできます。
『古事記』によると「造化三神は、皆独り神(ひとりがみ)と成り、身を隠した」と記述されるのみで、現れてすぐに隠れてしまうという点は、そのまま読むと難解ですが、この「隠れた」という漢字は、単に見えなくなった、隠れたという意味ではなく、大事に包み込んだという意味もあります。
その意味でとると「身」を「隠した」という事は、「造化三神が自身の体の中に、大事に包み込んだ」となり、我々のいる宇宙も全て「神の体の中」にあると解釈も出来ます。
この宇宙そのものというより、それを超える果てしない巨大さ、偉大さを持った神様とも考えられ、まさにアメノミナカヌシは、その名を「天の中心の主」と書きます。
万物に神性を見出す汎神論的側面を現しているのが造化三神ですが、果てしなく広がる宇宙(空)を見上げて、古代の人々は深遠で偉大な神々を感じていたのでしょう。
イラスト:アートモチダダイスケ
最高神としての側面
前述のとおり神話の冒頭にだけ登場するアメノミナカヌシノカミは、その謎めいた崇高さゆえに人々が安易に祀られることが少なくなり、実際的な祭祀の無い「閑職神(かんしょくしん)」とも考えられます。
閑職神とは、宗教学用語で「世界や人間と具体的なかかわりをもたない最高神的存在」を指します。
あまりにもこの世から隔絶した存在であるため、人間の日常生活に干渉することがほとんどない至高の神ですが、世界中の多くの民族に共通している信仰です。同じように至高の存在ながらも信仰が失われた「天空神」とも重なります。
アメノミナカヌシが最初の神として重要な位置に置かれている理由も様々な考察があります。高天原の支配者でアマテラスや、地上の支配者である天皇が象徴化された存在として冒頭に置かれたとする説。
ほかにも高天原・皇室に関係するタカミムスビと、出雲と関係するカミムスビとの対立、あるいは「天つ神」と「国つ神」との対立の統一を示すとする説もあります。
至高の存在とされながらも信仰対象とされる場面が少ない隠された神でしたが、中世からいくつかの神道流派でアメノミナカヌシを神々の体系の中心的な神格と位置づけ、全知全能を備えた至高神とする考え方があります。
妙見信仰との習合
神話に登場する神様は、時代によってその神格を変化させることも多いですが、アメノミナカヌシも同様で、中世以降、仏教と習合して「妙見さん(妙見菩薩)」と呼ばれ、多くの庶民に信仰されるようになりました。
「天の中心の至高神」という性格が、道教の影響を受けた北極星信仰と結びつき、日蓮宗において盛んになった妙見信仰と習合したとされます。
妙見信仰は北極星や北斗七星を崇めるもので、北極星を最高神として神格化し、仏教の菩薩の称号を与えられて妙見菩薩と呼ばれるようになります。
妙見菩薩のもつ全知全能の性格によって、衆生の苦しみが救われるというのが妙見信仰。
平田篤胤(ひらたあつたね)の復古神道において、アメノミナカヌシは万物を司る最高位の神、そして北斗七星の神と位置づけられました。
その影響から、明治維新の神仏分離令により「菩薩」を公然と祀れなくなった多くの妙見神社の祭神がアメノミナカヌシに改められました。
埼玉県の秩父神社や千葉県の千葉神社、岩手県の九戸神社や熊本県の八代神社はアメノミナカヌシを祀る代表的な妙見社です。
妙見さんとしてこの神を祀るのが妙見社(宮)で各地に存在し、星祭りの信仰があります。
また、安産や子育ての神さまとして有名な水天宮にも祀られています。
水天宮系は、本来アメノミナカヌシと無関係でしたが、幕末から明治の前後に水天宮系の神社で新たに御祭神として加えられた例が数多く見られます。
造化三神の相関図
【神格】
宇宙の根源神
生成神
創造神
【御神徳】
安産、長寿、招福、出世開運、学業上達、技術向上、縁結び、海上安全、厄除け、病気治癒、中風病退除、養蚕守護、諸願成就開運招福
【別名】
高木神(タカミムスビノカミ)
妙見神(アメノミナカヌシノカミ)
妙見菩薩(アメノミナカヌシノカミ)
【系譜】
タカミムスビの御子神=オモイカネノカミ、ヨロズハタトヨアキツシヒメ
カミムスビの御子神=スクナビコナ
【お祀りする神社】
秩父神社(埼玉県秩父市)
水天宮(福岡県久留米市)
神戸水天宮(兵庫県神戸市)
沖端水天宮(福岡県柳川市)
水天宮平沼神社(神奈川県横浜市)
水天宮(東京都中央区日本橋)
久米水天宮(埼玉県所沢市)
葛城神社妙見宮(福岡県築上郡築上町)
日高神社(岩手県奥州市)
九戸神社(岩手県九戸郡九戸村)
四柱神社(長野県松本市)
木嶋坐天照御魂神社(京都府京都市)
サムハラ神社(大阪府大阪市)
日野宮神社(東京都日野市)
東京大神宮(東京都千代田区)
相馬中村神社(福島県相馬市)
千葉神社(千葉県千葉市)
八代神社(熊本県八代市)
幣立神宮(熊本県上益城郡)
天祖神社(大分県由布市湯布院町)
足立山妙見宮-御祖神社(福岡県北九州市)
摩利支神社(福岡県宗像市)
など
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